現実よりも夢を、科学よりも空想を愛する人による博物誌







虚空図鑑 §2 川のはじまる場所を見に行く

 



(図版01 川のはじまりを想起せよ)

はじめに

 
07年05月の連休を迎えるムカイの子供たちは、ムカイの妻の計画した東京鼠王国への旅に浮き足立っていた。ムカイはしかしプラスチックやコンクリートで模造された自然、お膳立てされた冒険、娯楽が気に入らないのであった。近頃は小学校の遠足すら、いわゆるハコモノを見学するだけで、せっかく近所に山や川や田圃があるのになぜそれを見ない。神社仏閣古墳遺跡を訪ねない責任者出て来いと思い、それならいっそ連休前半に、ムカイ企画のミステリーハイキングに家族を誘おうと考えた。


川のはじまりを想起せよ!!!

 「家の前を流れているゴンゲン川は何処から流れてくるか知っているか」休みの前に子供に聞いてみた。きゃつ等は一瞬も考えることなく「知らん」というのであった。印度人は道を聞かれたら知らないとは言わない嘘でもでまかせでもとにかくおしえてくれると聞いたことがある。想像力の限りを尽くして何か考えろよ我が子らよと情けなくなりつつ例えばこんな風になっているのではないかとムカイが例をだした(図版01)。「ゼッタイ無い!!!」
それでは毎日流れてくるあの水(図版02)は何処からくるのか?一度見に行こうではないか。というわけで連休ふつかめの04月29日ムカイとその家族はおにぎりを持ってゴンゲン川の始まる場所をさがしにでかけた。

 実をいえばムカイは00年に好きなことをするための時間が一年間手に入ったのでまず手始めに前から気になっていた川の上流を確かめに一人で出かけたことがあり、今回は二度目のおでかけになる。提出した図版には00年に撮影された画像と07年の画像を使用している。

 川は両岸をコンクリートで固められ水路状になっている。上流から流れてきた土砂が所々で堆積してそこに植物が繁茂している。流れは浅く、上から見る限り、魚などはいない。以前にイシガメの姿を見かけたことがあったが今回は発見できなかった。川沿いの道は次第に傾斜を増し、子供たちは早くも疲れた腹減った足痛い暑い川の始まりはまだかと言い出す。途上の神社に参詣しようと提案するも石段(図版04)を見ただけで「イヤだ」といわれてしまう。

 更に坂道を登る。住宅地を抜け、山に分け入ってゆく。工場や資材置き場などが点在し、川はガードレールの下の谷を流れている。道路上は日陰がなく、暑い。単調な行程に探検隊員たちの間に不満が広がってゆく。光に映える新緑も、ときおり聞こえるウグイスの声も彼らの慰めにはならないようだ。


滝にたどり着く

 道は山すそに沿うようにカーブして方向を変え、新緑の天蓋がおおう谷間になる。わき道に入り、まっすぐに伸びた杉の木の林の中にある道をたどり危なっかしい板切れのような橋をおっかなびっくり渡ると、今回のハイキングの第一ポイントであるゴンゲンの滝に着く。子供たちはお不動さんが祀られた滝つぼ近くまで行って下を覗いてみたりしている。(図版06)小さな滝だがその辺りだけひんやりと涼しい。一休みしたいところだが、滝の周囲の休憩スペースは休憩にはいまいちな氣がして、それにひるごはんにするには少し時間も早かったので、さらに歩を進めることにする。

 滝の上はどうなっているのか、それが問題だ。木立を透かして上の方を見ると、滝の上に道があり、他のハイカーたちが歩いていることがわかる。川はまだ続いているのだ。小休止のあと、先ほどの分かれ道まで引き返す。
 杉木立の道で子供の帽子にトンボが止まる。(図版07)子供は大騒ぎで、虫を怖がる。

 山道は先ほどの滝の上を通っている。滝つぼが見えるかと覗いて見たが藪に邪魔されてよく見えない。水路に沿って上り続けると、川は二股に分かれて、片方は砂防ダムになっていて、道がない。今回は道に沿って続いている方の流れを追うことにする。とはいうものの、道沿いの川はコンクリートで固められたただの水路になり、水もほとんど流れていない。

 視界が開けると、目の前には一面に草の生えた傾斜地。その傾斜をえっちらおっちら登ると、そこにあったのは満々と水をたたえた池なのであった。
 結局ゴンゲン川の始まりは山の上にあるムロ池であった。子供たちは別のルートで、自動車に乗って、何度と無くこの池に来たことがあったので、なーんだという顔で、持ってきたおにぎりを食べたのであった。 
  

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(図版02 毎日流れてくるあの水)

(図版03 07年の人がフェンスに)

(図版04 神社へ続く橋)

(図版05 暑い上り坂)

(図版06 滝にたどりつく)

(図版07 トンボにとまられる)

(図版08 川の始まりの場所は近い)


(図版09 草原)

(図版10 池)