現実よりも夢を、科学よりも空想を愛する人による博物誌




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監修

蟹 博士



執筆者

多田要太
向井仁志



写真

特に断りなき場合、このページの写真は向井仁志が撮影している


 

目次

 §1 カタツムリの生態

§2 川の始まる場所を見に行く

 



図版1  03年07月11日撮影 捕獲時よりかなり成長している

図版2 03年07月11日撮影 キュウリを与える

 §1 カタツムリの生態


   はじめに

 カタツムリの発生については是まで諸説あったが、今回の我々の観察によって、定説を得ることが出来た。まず今回の飼育・観察の発端から述べる。

   個体捕獲の経緯

 第一個体の捕獲は03年06月27日。発見者はムカイの娘(当時07歳)場所はムカイの家の風呂場。「洗面器に何かふっついている」(彼女は『くっつく』を『ふっつく』というのだ)との申告によりムカイが観察すると、直径01ミリ程の半透明の物体を認めた。ごみ或いはゴキブリか何かの糞ではないかとおもわれた(ムカイの眼球はこの頃小さなものに合焦しにくい)が、なおも熱心な観察により(恐らく間抜けな寄り目状態であったと思われる)それがカタツムリであると同定された。

  飼育環境

 捕獲した個体は、取り敢えず、台所で余っていたプラスチックケースに収容したが、蓋をしてしまうと窒息しそうなので、蓋にカッターナイフで窓を開け、流しの三角コーナーの塵入れ用不織布袋を切って貼り付けた。
  その後、スーパーのペットコーナーで売っている飼育ケースを購入して、蓋部のスリットにやはり不織布を貼り付けた。
  中には餌置きとして、ヨーグルトのカップの底の部分を切ったものを裏返して置いた。
  また隠れ場所として、素焼きの植木鉢片と、飼育ケースと一緒に購入した昆虫のための登り木(ゼリー状の餌をセットできる穴付)を蒲鉾板に接着して立てたものを入れてみた。おしゃれなアクセントのつもりだったが、カタツムリには完全に無視されてしまった。
  参考文献等には『土を入れてやりましょう』とかいてあるが、以前カブトムシ飼育の際に入れた腐葉土に黴が発生した経緯があり今回は土無しで飼育してみることにする。


  第二個体の捕獲と命名

 03年07月12日風呂場で上靴を洗っていたムカイの娘が第二番目のカタツムリを発見する。殻の差し渡しが約1ミリ。またしても風呂場に出現したカタツムリである。ああ、何故カタツムリは風呂場に出現するのであろうか。ナメクジは台所にも玄関にも庭にも出現するのに、何故にカタツムリは風呂場にのみ出現するのであろうか。
 ともかく個体識別の為二匹に命名が必要となった。ムカイは風呂場にいたからということで、第一個体をサンスケと命名。第二個体はその次だからヨンスケとなづけた。
 名前を聞いたムカイの娘(05歳)は「サンスケとヨンスケ!サンスケとヨンスケ!」と何度も叫んだ。

 ゴスケの捕獲とヨンスケの行方不明

 数日後、またしても風呂場にカタツムリが出現。ヨンスケよりも少し大きい個体で、ステンレスの風呂桶底に転がっていた。とりあえずゴスケと命名されたが、そう何匹もカタツムリを増やしてもという周囲の意見により玄関脇のアジサイの植え込みに放した。
 さて、03年08月10日朝ケースを見るとヨンスケの姿が無い。サンスケは植木鉢のかけらの裏側にふっついていたが、蒲鉾板にも登り木にもヨンスケはふっついていなかった。逃げるとすれば、ケースの蓋にある小さな隙間からなのだが、本当にそこから逃げたのか、見事な脱出にヨンスケ改めテンコーと呼ぼうかと思う。

 ヨンスケ再登場

 03年08月25日朝飼育ケースを覗くと、昨夜餌入れに入れておいたキャベツに大小二匹のカタツムリがかじりついていた。小さい方は行方不明になっていたヨンスケに違いない。一体今まで何処へ隠れていたのか。
 餌入れにしているヨーグルトのカップを切ったものを観察してみると、湿気で紙の接合部が僅かにめくれあがっているところが発見された。ヨンスケはどうやらそこへ潜り込んでいたものらしい。 

 ロクスケ

 03年09月25日入浴後に風呂場のタイル上でカタツムリ一個体を捕獲。ロクスケと名付ける。殻の長さは約4ミリメートルで、見たところサンスケと同じ位の大きさ。どっちがどっちか判らなくなりそうだったので、ロクスケの殻にマジックでしるしをしてケースに入れる。

 越冬準備

 03年10月24日夜コーヒー用のペーパーフィルターを細かくちぎってヨーグルトのカップに入れる。このところカタツムリ達はあまり餌を食べなくなってきたので、もう冬眠だろうと思い、本物の落ち葉や土を入れようかと検討したが、結局代用品を使うことにした。とりあえずこれで春までお休みかと思っていたら、

 続々現れるものたち

 03年10月27日入浴中の妻が新たな固体を発見。ナナスケと名付け飼育ケースに入れる。さらに、
 03年11月20日にも二匹が発見され、ハチスケ、キュウスケとして飼育ケースに収監された。この際、久しぶりに茹でたブロッコリーを食べさせる。
 03年11月22日にも風呂場で一匹捕獲。ジュウスケである。全員にリンゴの皮を与え様子を見る。皆久しぶりに触角を伸ばしてうろうろしているが、古くからの個体は早々に引っ込んでしまう。
  それにしても、これだけ増えてしまうと、もう個体は識別できなくなってしまった。繁殖が目的ではないので、個別飼育も考えないではなかったが、設備やスペースや手間を考えるとむずかしい。もう投げ込みでいいやという気になってしまう。

 彼らは何処から来るのか

  寒くなってからこんなに沢山のカタツムリが現れるとは思っていなかった。ロクスケ以降の捕獲個体は殻長が1.5ミリメートル位のちびどもなので最近卵から出てきたばかりなのかもしれない。風呂場のタイルの隙間に、カタツムリの常夏の王国に続く抜け道があるのではないかという仮説の信憑性がますます高まってきた。

 
 その後のカタツムリたち

 04年05月ムカイの家は建替えの為に取り壊された。更地になった風呂場の後を見たがカタツムリの常夏の王国への道は発見できなかった。新築の前に、建築家と工務店は、地盤が多少軟弱なので調査の上改良工事をした方がよいといい、そのようにされた。ムカイ一家は新居が完成する09月までの間、隣町の借家で暮らした。カタツムリたちの入った飼育ケースもそこへ連れて行ったが夏眠の季節を過ぎても殻から出てくる個体はなかった。引越し先の温度や湿度が小さな彼らの生存には厳しいものであったと思われる
 ムカイ家の地下にはカタツムリの常夏の王国が存在し、巨大なカタツムリの母が数知れぬ卵を産み孵化したタイルの割れ目から地上に進出していたことは遂に証明されなかったのではあるが、新居の基礎工事が始まった頃、何度か体感された地震が巨大母カタツム移動したために起こったものであると考えられる。カタツムリは恐らく断層面に沿って南北いずれかに移動したものと推論したが、07年に南隣の市に住む未知の女性から自宅の風呂場にもカタツムリが出たというメールを頂戴して、やはりそうだったかとおもったものであった。
 また、そんなでっかカタツムリがおるかい!という反論には、私は見た。あれはでっかい貝だった。と、08年夏に長居の自然史博物館で開催された『恐竜はラボでよみがえる』という特別展に展示されていた人の背丈ほどもあるアンモナイトの話をしてあげようではないか。

というところでこの項を終わる。

 

 

 

 


図版3 08月27日撮影 ヨンスケ(左)とサンスケ