此処には妄想者多田要太による物語を所収しています。      



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多 田 要 太


第12話 はたらくおじさんのひみつ
テレビという幻覚

さんちゃん 「ぺろくん、今日はテレビ局を見に来たよ」

ぺろくん  「あれあれ、さんちゃん本当にここがテレビ局なの? ただのアパートみたいだけど」

おじさん  「やあこんにちわ。ぺろくん、心配ご無用。ここが正真正銘テレビ局だよ」

ぺろくん  「それじゃ、ここには綺麗な女優さんやかわいいアイドルなんかもいるんでしょう? 早く会いたいなあ」

さんちゃん 「ぺろくん欲望丸出しだよ」

おじさん  「ははは、まずは応接室へどうぞ。テレビの仕組みと歴史について解説するよ」

ぺろくん  「応接室? ただのアパートの六畳間だし。ちゃぶ台の上に出てきたのは、ほうじ茶とお饅頭だし。思ってたテレビ局と全然違うよ」

おじさん  「ぺろくん、遠慮なくどうぞ。ところでさんちゃん、テレビが写る仕組みを知ってるかい」

ぺろくん  「テレビカメラで撮った映像を電波で受像器に送るんでしょう」

おじさん  「そう、最初の発想はそうだったんだ」

さんちゃん 「ええっ! それじゃ今はちがうんですか」

おじさん  「そうだよ。ちょうどテレビが開発されていた頃に脳科学の研究が進んで、視覚中枢の働きがわかってきたんだ」

ぺろくん  「テレビと脳にどんな関係があるの? もぐもぐ」

おじさん  「目から入った光は網膜で電気信号に変換されて神経を通り脳内で画像に変換されるんだけど、その電気信号のパタンが解析できるようになったんだ」

さんちゃん 「おやおや、なんだかいきなりむずかしくなってきたぞ」

ぺろくん  「要するに目玉と脳味噌はデジカメだってことだね。もぐもぐ」

おじさん  「ぴんぽーん! ぺろくん大正解」

ぺろくん  「信号のパタンがわかれば、それを作っちゃえばどんな画像も思いのままってわけですね もぐもぐ」

おじさん  「そのとおり! おいおいぺろくん、冴えてるね。つまりテレビ画面に映っているのは、ただの光の点滅パタンなのに、それを見た人間の脳には、リアルな画像として認識されるのさ」

さんちゃん 「ええっ! それじゃ美人女優もぴちぴちアイドルもただの光の点滅ってことなの?」

おじさん  「そう テレビに映っているすべてのものはこのテレビ局で作り出された電気信号なのです。出演料もスタジオ経費もロケ費用も要りません」

ぺろくん  「でもテレビでみたアイドルのサイン会に行ってリアルアイドルに会うこともできるでしょう もぐもぐ」

おじさん  「ぺろくん いい反論だねっ! 実は、視覚だけでなく脳内の情報はすべてが電気信号として処理されているんだ。つまりアイドルと握手した感触や、テレビで評判のラーメン屋で行列して食べた味覚・嗅覚といった五感も記憶も思考も脳内では電気信号なので、いくらでも作り出して、テレビ電波に乗せれば、そんな体験を求めている人の脳に提供できるのさ」

さんちゃん 「ええっ! ぼくらの脳はテレビに支配されているってこと!??」

おじさん  「はっはっはっ さんちゃん、ひとぎきの悪いこと言わないでくれよ。おじさんはただただみんなに楽しんでもらいたいだけなんだぜ」

ぺろくん  「そうだよ、さんちゃん。どうせこの世界なんてぼくらのちんけな脳味噌が見ている夢みたいなもんじゃないか。全ては夢、夢夢夢。夢でござぁる! わはははははははは」

さんちゃん 「ハッ! 夢だったのか。ここはどこだ? 雑木林? アパートの部屋だと思っていたのに。ちゃぶ台は・・・切り株だし! あれっ! ぺろくん何を食べてるんだ! それは馬の・・・」

ぺろくん  「おや、目が覚めたのかい。さんちゃんの分のお饅頭もぼくがもらっちゃったよ」


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